アメリカから見た日本食文化

ニューヨークにて「食と健康の未来」を日夜追求する


アメリカで活躍する日本人 カウンセラー&シェフ 浅沼 秀二 

 

 食べながら健康になる。ホリスティック(総合的な)スタイルを提唱し、プロバイオティック・フードを中心に健康食を研究中。

 様々な健康法を学び、実践しながら現代の食事に合った健康法、食事法を導き出している。

毎日の食生活がいかに大事か

「親が知らないのに、誰が子供たちに教えていくのだろうか?」

 

 「食」の仕事に携わりながら、人生の半分をニューヨークで過ごしてきました。そして、いつの間に生まれ育った日本がいつしか遠い国となってしまった。

 そして、時折訪れる日本はやはり「素晴らしい国」。こんな国は世界のどこにもない。訪れるたびその思いは強くなっていく。

奇跡のスープ 

 家庭料理の代表といえばスープ。

 野菜、魚、肉など季節ごとの様々な食材を使える料理なので栄養が豊富でバランスがあり毎日でも食べることができる。スープはまさに「おふくろの味」。これに異を唱える人はいないだろう。世界中どの国や地域にも様々なスープが古来より受け継がれ家庭料理の代表となっている。 

 そのおふくろの味のスープを作るにはまず「だし」が必要となる。だしの材料となるものを見ていくと世界でポピュラーなものは鶏の骨や、魚の骨、野菜など。そして日本は鰹節、昆布、煮干しなど。

「日本古来のだし」と「鶏ガラ」との比較

 

「鶏ガラのだし」

 新鮮な鶏の骨を買い、包丁でバンバンと骨を砕いて、流水で数時間血抜きをする。それから香草などと一緒に一日中コトコトと煮てそして漉す。脂が浮いているので丁寧にすくい取る。作業時間は3時間くらい。ちなみに鍋やシンクは脂でギトギトになり掃除に手間がかかる。

 

「日本のだし」

 昆布は水に数時間浸す。それを火にかけて沸騰してきたら昆布を取り出し鰹節を加えしばらくして漉す。細かいコツもあるが、同じ材料を使えば家庭でもプロでも大きな違いはでない。そこそこプロに近い味が出せてしまう。作業時間は10分くらい。鍋もシンクもほとんど汚れないのでかたずけは楽。そしてだしをとった後の鰹節や昆布は煮たり、ふりかけにして食べることができる。また、煮干しの場合もだしをとった後、昆布と一緒に甘酢に漬けておけば美味しいおかずになる。ぼくの場合、煮干しと昆布はそのまま味噌汁の具として食べてしまう。ほとんど無駄が出ないといっていいほどだ。

 

 栄養面で見ても、特に煮干しと昆布のだしは煮干しからビタミンやカルシウム、そして昆布からは豊富なミネラルとビタミンが摂取できる。

 

「日本のだし」の特徴

・材料が長期保存できる。

・包丁がいらない。

・非常に短い時間でできる。

・誰でも簡単にできる。

・後かたずけが楽。

・バランス良い栄養を摂取できる。

・美味しい。

・無駄が出ない。

 

 世界中を見渡してもこれほど圧倒的に「簡単で」「美味しく」「栄養のある」だしは他に類を見ない。日本のだしは「世界に誇る伝統食品」であると言っていい。

 

 そして、このだしを使った味噌汁。

 味噌には大豆の良質なタンパク質がたっぷり。しかも発酵しているため非常に吸収されやすい。代表的な具の豆腐にはさらにタンパク質、ワカメにはミネラル、ビタミン。ネギはビタミン豊富で「薬味」といわれるほど。他にも季節に応じ様々な野菜、魚、肉を、冷蔵庫をかたずけながら加えることもできる。まさしく非の打ち所がない。

 

「奇跡のスープ」

 

 ぼくは味噌汁をそう呼ぶ。

 物事は少し離れたところからの方がよく見える。人生の半分を海外で暮らしていると返って日本の良さがよく分かる。たった一杯のスープにこれほどまで祖先たちの知恵がぎっしりと詰まっていることを、日本の人たちは気付いているのだろうか。

 日本食は発酵食文化 

 

 世界の食と比べ日本食の特徴としては他に「発酵食品」がある。温暖で多湿な日本の気候が発酵に向いているためであろう。先人たちのアイディアは日本独特の発酵食文化を作り上げた。味噌、醤油、酒、甘酒、酢、納豆、ぬか漬け、漬物などがあるが、1日のうちでもたくさんの発酵食品を食べてきたことが分かる。

 

 日本の伝統的な朝食といえば、ご飯、味噌汁、ぬか漬け、納豆、焼き魚といったところ。これだけでも発酵食品だらけである。さらに調味料として醤油、酒、みりん、酢もごく普通に使っている。たった一食の中にこれだけたくさんの種類の発酵食品が使われるのも日本食の特徴ではないだろうか。しかもほとんど毎日、毎食のことであった。

 

 日本は世界一の長寿国としても知られている。その大きな要因のひとつとしてぼくは「発酵食文化」が日本の健康を支えてきたと考えている。食材を発酵することによって、もとの食材には無かった栄養や健康効果を生み出していることが多いためである。

 

いくつか発酵食品の特徴をあげてみる

・新たな栄養素を作る。

・酵素が豊富。

・消化吸収が良い。

・菌の働きによる整腸効果。

・保存が効く。(味が良くなっていく)

・美味しい。

 

 例えば大豆の食べ方でも「煮豆」と「納豆」では大きな違いが出てくる。まず、大豆は煮豆にしても消化吸収が悪い。胃腸に負担がかかる割に栄養素を無駄に排泄してしまっているのだ。だいたい納豆の6、7割程度しか吸収できないと言われている。また、ナットウキナーゼなどの酵素を多量に含む納豆に比べ煮豆は酵素を含んでいない。整腸作用もある納豆は大豆のタンパク源としてまさに理想的。これを毎朝食べてきた日本人の健康効果は計り知れないものがある。

フランスでのこと

 

チーズを誇りにするフランス人 

 

 以前フランスに渡りパリに住んでいた。

 テレビ局を始めいろいろなレストランで働いていた。その頃同僚たちとよく食べ物の話をしたところ、フランス人は実に自国の食べ物を誇りに思っていることに気付いた。

「どう、美味しいだろう?日本にこんな美味いものはないだろう。フランス料理が一番さ!」

 皆そう言って自慢していた。これは気質なのか、それとも教育なのか。

 最初のころ鼻についたこんな言葉に対し、1年ほど経つとこちらも負けじと「何言っているんだ。日本食も食べたことがないくせに。ぼくは両方の国に住んで、食べた経験がある。日本食はフランス料理に負けないほど美味しくて素晴らしい料理だ!」と面と向かって言うようになった。

 そして、自分の国の文化を自慢に思い大切にすることは素晴らしいことに気付いた。

 

 では、ここで日本のみなさんに問います。

 

「自分の国の食べ物」を誇りに思っていますか? 大切にしていますか?

 

 日本を訪れるたびに感じるのは、親から子供へと代々伝わってきた「食文化」をいとも簡単に忘れてしまっているということ。それも次第に加速してしるように感じられる。

 

「便利になり過ぎた日本は、急速に大切なものを失いかけている」。

 

 これを日本へ来るたび痛切に感じる。

 外食、コンビニ、インスタント食品が当たり前になり、アパートに箸すらない若者が増えていという。食事は「作るもの」から「買うもの」へと変わってしまった。たった10分でできるだしを、

「めんどうくさい」と言って化学調味料で済ませ、愛情のない食事でごまかす。

 ただ舌をごまかすことができても、身体をごまかすことはできない。

 栄養の偏った化学薬品漬けの食べ物を続ければ必ずツケが回ってくる。

 それは我々よりも、子供たち、そしてその子供たちにと代々重くのしかかってくるだろう。

 テレビ、ゲーム、SNSに費やす時間はあっても、忙し過ぎて料理をする時間はないとひとは言う。

 

 これが豊かさなのだろうか。

 はたして未来の子供たちは健康な身体で生まれてくるのだろうか。

 

2015年7月に日本で行ったセミナー

 

 日本で開催したセミナーにはいろいろな方に参加して頂きました。

 その中のひとりにコンビニの店舗経営者の方がいました。親が20年ほど前にフランチャイジーとして契約し、子供の頃からコンビニ文化がごく身近にあったそうです。

 彼女の叫び「変えて欲しいんです、コンビニを!」添加物いっぱいの身体に悪い食べ物を買ってそれしか食べない人がいることを嘆く彼女は「そんな人にひじきの煮たのとか渡しているのです」文字通りコンビニエンス(便利)なストアは発祥地のアメリカより遥かに日本に根ざしました。

 ぼくも今回の日本の滞在中何度もお世話になりました。24時間開いていて本当に「便利」です。

 そんな「無くてはならない」コンビニの存在する意味は、「企業の利益」目的を超えたところまで来ていると感じられました。

 

 

 いま日本は、食に関しては多彩な食品やレストランが溢れ、一見豊かにも見えるが、その実「味と見た目とコスト」ばかり追求し、大切な「食文化」が加速的に忘れ去られている気がしてならない。「食文化」とは先人たちの遺した「知恵の結晶」。食べるだけのことに留まらず、人間形成、社会構築など人類にとって重要な要素を育む役割も持つ。

 つまり「食文化は教育の根幹」と捉えらてしかるべきもの。それが急速に忘れ去られようとしている。

 

 日本は経済大国になり世界を凌駕した。いまや他国に抜かれるようになったが、日本の本当の力は経済力ではないと思っている。日本がもっとも力を発揮できることそれは、「文化」。

 

 日本は「文化大国」に他ならない。

 特に食文化は他の世界の料理とは明らかに違った非常にユニークなものである。日本の食文化は常に変化してきた。伝統を「守り続けてきた」だけではない。日本はアジアからたくさんの移民が集まってできた国であり、食材も常に新しいものを採り入れる柔軟性があった。ジャガイモ、玉ねぎ、カボチャ、大豆、醤油、味噌・・・どれも海外から伝わった食材である。日本の食文化はこれからも時代と共に変化していく必要がある。ただし、ここか大切だが、「間違った方向」へ進化してはいけない。

 

 コストを下げるため、めんどうくさいため、科学力を駆使した食品が氾濫しては日本の子供たちの未来はない。先人たちが培ってきた「知恵のかたまり」を大切にしながら、その上に時代にあった「創造力」を付け加えて新しい文化を創り出す。それこそ明るい未来へと繋がる鍵となる。

 

食文化 = 先人の知恵 + 創造 → 明るい未来

日本食が世界をリードする 

 

 日本食は今世界中から注目されている。ニューヨークでもとても人気が高い。そして健康食として大いに期待されている。今後日本食はより世界へ広がることだろう。世界中が待っているのだ。

そのとき、日本は世界に対してどう期待に答えれば良いのか。

 

 期待されて蓋を開けたらインスタント食品ばかりでもいいのか。

 

「日本食は世界の健康をリードすべき立場にある」これがぼくのセオリーの基盤になる。

そのためにはまず日本の人たちが自分たちの国の食文化を見つめ直すことから始まる。

それには「教育」が欠かせない。

誰かが教えていかなければ、伝えていかなければ、文化の灯火はいつしか消える。

 

「まずはだしを取ることから始めましょう」全てそこから始まる。

 

味噌汁を作ろう!

 

 毎日できないなら時々でもいい。

 鰹節や昆布や煮干しでだしを取って味噌汁を作ろう。

 上手くできなくても、少しずつ上達するようにすればいい。

 プロだってなんども失敗しながら上手くなっていくのだから。

「愛情を注ぐこと」は誰でもできる。

 上手く作ろうとしないで、愛情をいっぱい注ぐことだけ考えてつくろう。鼻唄歌いながら楽しんで作ろう。きっと自分も周りも幸せを感じるはず。

 

ミッドタウンのニューヨーク日系人会セミナー

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浅沼 秀二 ブログ

 http://ameblo.jp/nattoya


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